第1回 脊柱側弯症について

第1回のテーマは『脊柱側弯症』です。東京都福生市にある医療法人社団 大聖病院 整形外科の斉藤正史先生にお話をうかがいました。


脊柱側弯症とは
正常な脊柱は、正面あるいは背面から見るとほぼまっすぐに伸びていますが、横から見ると前後にカーブしています(生理的弯曲(せいりてきわんきょく)[?]

といいます)。この弯曲が異常であったり、脊柱が側方(横)に弯曲したりすることを脊柱変形(せきちゅうへんけい)といいます。 脊柱変形は、脊柱がねじれながら横に弯曲していく側弯症、後方に凸に曲がってくる後弯(こうわん)症、そして、側弯と後弯が合併した後側弯(こうそくわん)症の3つに分けられます。外来にみえる患者さんの多くは、いわゆる側弯症で、原因のわからない特発性側弯症(とくはつせいそくわんしょう)が殆どです。次に多いのは、生まれつき背骨の奇形をともなっている先天性側弯症(せんてんせいそくわんしょう)です。

この他に、脊椎以外の病気による変形(症候性側弯症:しょうこうせいそくわんしょう)など、さまざまな側弯症がありますが、脊椎外科の治療の対象になるのは、主に特発性と先天性の側弯症になります。

先天性側弯症は、生まれつき椎体[?]

に奇形があったり、癒合(ゆごう=くっつくこと)したりしているために起こります。変形の状態によっては後方に弯曲することもあります。

特発性側弯症について

成長とともに発症して進行する原因不明の側弯症です。発症する時期によって乳児期側弯症、学童期側弯症、思春期側弯症に分類されます。欧米では乳児期の発症が多いのですが、日本では乳児期側弯症は少なくて、思春期側弯症が最も多く、また女子に多く発症します。

側弯症そのものも女子に多く、体型的にはほっそりした華奢な体の子が多いため、性ホルモンや筋肉量と関係しているという説もありましたが、結局よくわかっていないのが現状です。他の疾患と同じように、早期発見早期治療が基本です。学童期・思春期側弯症は、学校検診で発見されることが多いのですが、検診をする医師は必ずしも整形外科医とは限らないために、見落とされてしまう場合もあります。

胸椎に側弯がある場合は、肋骨も変形していることが多いのでわかりやすいのですが、腰椎では 背中の変形(隆起)が比較的わかりにくいため、見落とされ発見が遅れてしまうことがあるのです。早期発見のためには専門医による側弯症検診が重要ですが、 検診の実施については都道府県によって異なります。
正常な脊柱は前後から見たときにまっすぐに見えますが、これが左右に10度以上弯曲すると側弯症と診断されます。側弯の角度は、エックス線写真で、特殊な計測方法を用いて計ります。
ちなみに20度くらいまでの側弯は、外見上は専門家が見ればわかりますが、一般の人にはわかりません。30度を超えると一般の人にもわかるようになり、親 御さんが、お風呂でお子さんの体型の異常(例えば、背中がいびつであるなど)に気づいて受診されることも多くあります。


健康への影響

どこの部位に側弯が起こっているかで異なります。側弯のタイプとしては、胸椎の右凸の側弯が圧倒的に多く、また、女子に多いということで、胸椎の場合は美容も重要な問題になります。
側方に弯曲しているだけでなく、椎体自体がねじれながら弯曲するので、肋骨も変形してきます。凸側の肋骨が後ろにはりだしてくると、左右の乳房が不同になったり変形したり、背中が出っ張ったりするなど、美容的なストレスになります。
さらに進行していくと、凸側の肋骨の前後がつぶれるように変形して、肺などの臓器を圧迫するようになります。側弯が70度を超えると肺活量が明らかに少なくなりますし、90度を超えると平均余命も正常人に比べると短くなるといわれています。
このように進行した胸椎の側弯症では、肺や心臓の機能に対する影響が重要な問題になります。腰椎、あるいは、胸椎から腰椎に移行する部分では、内臓への影響はあまりありません。ただし、腰椎は、胸椎のように肋骨がなく、主に筋肉と靭帯で支えられているので、胸椎に比べると負担が大きいと言えます。
弯曲した椎体は椎間板[?]

に大きく影響します。側弯が30~40度以下であればそれほど負担はかかりません。ただし、長い目で見ると椎間板への負担はあります。
45度を超えると椎間板への負担が均等でなくなり、椎間板の痛みが起こり、比較的早期に腰痛が起こります。腰椎側弯の場合の問題点は、美容上の問題もありますが、胸椎ほど目立たないので、腰痛が治療の一番の対象となります。


治療について

側弯の程度によって違いがありますが、まず装具療法を行います。この他に、体操療法、電気刺激、メラトニン(ホルモン)療法などがありますが、現実に治療効果があるのは装具療法といえます。
現在使われている装具で最も多いのは、アンダーアーム型といって、脇の下から胴体部分に装着するプラスチック製の装具です。これですと、ゆったりとした服 を着たら外見上わからなくなります。残念ながら、このタイプの装具では胸椎の上部(頚椎に近い部分)の弯曲には効果がありません。しかし、上部胸椎はそれ ほど進行しないことが多いです。装具の着け方については、①24時間の装着、と②夜間だけ装着する、という方法で、医師の間でも意見が分かれています。理想は24時間ですが、このような 硬い装具を付け続けるのも本人にとっては苦痛です。私は③自宅でつける、ということを原則にしています。それでも進行する場合は、装着時間を延ばして24 時間にすることもあります。


装具の効果について

装具の効果として期待することは、側弯の矯正とともに進行を遅らせることです。装具治療で矯正ができない場合でも医師はなるべく進行を遅らせて、ある程度成長したところで手術をしたいと考えています。ただし、装具療法の効果には個人差があります。
誰でも手術はしたくないものです。ですので「装具で治るのですか?」とよく聞かれます。医学会でも議論されているのですが、発症の時期やカーブの状態で、ある程度予測はつきますが、進行するか進行しないかの指針はまだ明らかになっていません。
整体やカイロプラクティックを訪れる人も多いですが、残念ながら、側弯症に関してそれらの治療は効果がありません。親御さんの心情としては理解できますの で、あえてそれをするなとは言いません。しかし、効果のない治療を何年も続けた結果、側弯が進行してしまい、その後数回の手術治療を必要としたケースもあ ります。ですから、定期的に整形外科の専門医を受診することを強くおすすめします。整形外科の受診は、装具を着け始めた頃は3ヶ月に1回、安定してくれば4ヶ月に1回の診察で進行を診ます。未成熟の身体へのエックス線の影響を考えて、撮 影枚数を最小限にとどめています。また、最近では、人体への影響がより少なくすむエックス線撮影装置を設置している施設もあります。


手術療法の適応は?

側弯症の手術療法として、矯正術(きょうせいじゅつ)が行われています。矯正術は、術前と術後の角度の割合(矯正率)で評価します。通常でも矯正率は70%を超え、安定した成績を得られる手術といえます。さらに矯正率が80%超えると、見た目で殆ど正常とわからなくなります。

一般的には、胸椎では50-55度を超えたら手術を考えます。胸椎で40度以下であれば、特殊なタイプ(肋骨の隆起が目立つもの)を除いては、ほとんど手 術は行いません。 なぜ手術が必要かというと、50度超えると、成長が止まった後も、体の重さで椎体や椎間板がくさび状に変形するなどして、年に1度、2度と進行していくか らです。つまり、胸椎の場合、50-55度以上では成長が終了した後も進行するリスクが高いので手術の適応なるわけです。
ちなみに胸椎の上部は、手術の適応となることは多くありません。進行することが少なく、多少曲がっていてもあまり目立たないからです。
胸椎から腰椎の移行部では40度を超えたら手術を考えます。胸椎から腰椎の移行部、腰椎では、腰痛などの自覚症状を取り除くことと、のちのちの椎間板の変性を考えて、手術が適応となります。


より侵襲の少ない手術

脊柱側弯症の矯正術[?]

は、背中側を切開して椎骨の後方に金属を固定して矯正する後方アプローチ[?]と、脇を切開して椎骨の前方(椎体そのもの)に金属を固定して矯正する前方アプローチ[?]があります。
いずれも金属製のスクリュー(ネジ)やフック、ワイヤー、ロッド(金属の棒)などを組み合わせて使用します。70度くらいまでの側弯は、術者が得意とする 方法であれば、効果についてはほとんど差がありません。80度を超えると高度な技術が必要となります。

私は腰椎や胸椎から腰椎の移行部については、前方アプローチで行います。前方では、椎体そのものを直接矯正できるので、狭い固定範囲で高い矯正効果が得ら れると考えています。後方よりも固定する範囲が少ないので、出血量が少なく、時間もより短くなるので、体への侵襲が少なくなります。また、最近では小さな 皮膚切開、例えば12cmで5椎体の手術を行うこともできます。
もう一つ重要なことは、手術の傷あとです。この場合は、傷が体の脇にくるため、手を伸ばしていると隠れる位置になります。
しかし、前方の場合は、横隔膜や腹膜の処理、近くに大血管が通っているなど、手術部位に到達するまでの展開が複雑です。それに比べて後方アプローチは展開が容易なため、前方アプローチで行う医師は多くありません。
腰椎とは違って、胸椎で広範囲の弯曲の場合は、前方アプローチが低侵襲とは言えません。それに、乳房の脇に傷がつくより、背中の方がよいのではないかと考えます。なるべく目立たないところで手術をすることが、美容の目的からは重要なことです。
近年、脊椎外科においても内視鏡による侵襲の少ない手術が普及しつつありますが、側弯症の矯正術については、手術時間がかかる上に手術操作が十分に行えな いなど、まだまだ課題が多く残っています。米国でも一時期盛り上がりを見せましたが、現在は減少傾向にあります。
大切なお子さんを預かって手術をするわけですから、最大限リスクを避けることが最重要と考え、より確実な方法で手術を行っています。


手術後の日常生活について

手術後は骨癒合(こつゆごう=骨がくっついて一塊になること)を第一に考えます。
日常生活については、半年間スポーツは禁止です。その後は軽いスポーツから始め、通常のスポーツは術後10ヶ月としています。
背骨を金属で固定しているので、背中の柔軟性は失われてしまいます。ですので、女性ではあまりしないと思いますが直接体のぶつかるようなスポーツ(柔道、 格闘技、ラグビーなど)は禁止です。テニスやスキーなどは問題ありません。飛んだり走ったりと、日常生活は普通に過ごすことができます。
もちろん結婚や出産をされる方もいますし、まったく問題なく生活している方がほとんどです。
背中に金属が入っていることで心配される場合があります。金属があたって痛いということもありませんし、これまでに250人以上の患者さんを手術していま すが、不都合で金属を抜去しなければならないことはありませんでしたので、あまり気にせずに生活されると良いと思います。

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