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第4回 脊柱側弯症の内視鏡を使用した前方矯正固定術

今回は、『脊柱側弯症の内視鏡を使用した前方矯正固定術』について、神奈川県藤沢市辻堂にある湘南藤沢徳洲会病院 脊椎・側弯症外科センター長 副院長の江原(えばら)宗平(そうへい)先生にお話をうかがいました。

この病院では、手術の安全性を確実に実現獲得するためのコンピューター支援手術や、脊柱側弯症に対する内視鏡を利用した小切開での手術など高度かつ最先端の脊椎手術を行っている日本でも有数の病院です。

  1. アプローチ(進入)方法と矯正固定術
  2. 内視鏡を使用した前方矯正固定術の開発
  3. 手術の実際
  4. 主なメリット
  5. 合併症について
  6. 術後の経過
  7. 内視鏡を使用した胸椎矯正固定術の適応
  8. 問題点と課題
  9. 自信を持って薦められる手術

アプローチ(進入)方法と矯正固定術


脊椎を手術する際には、後方アプローチと前方アプローチという進入方法があります。
後方アプローチは、背中の皮膚を切開して脊椎に到達する方法です。一方、前方アプローチは、体の側面から脊椎に到達する進入方法です。側弯症の手術で は、主に胸椎や腰椎を矯正して固定するため、前方アプローチで行う場合は、肺や大きな血管を避けながら手術をしなければならず、高度な技術を要します。
一般的には、後方アプローチで行われることのほうがが多いのですが、後方アプローチの場合は、脊椎の後方部分(背中に近い部分)からスクリュー(ネジ)とロッド(棒)などの金属を使用して脊椎を矯正し固定します。
前方アプローチの場合は、脊椎の前方部分(椎体)に側方からスクリューとロッドなどの金属を使用して脊椎を矯正し固定します。一般的に後方固定術よりも矯正効果が高く、より少ない範囲で手術を行うことができます。

内視鏡を使用した前方矯正固定術の開発

もともと脊椎や骨盤の悪性腫瘍やリウマチによる破壊性脊椎症など、胸椎や頚椎の手術を数多く行っていましたが、中でも胸椎の悪性腫瘍や小児の重度脊柱変形など開胸を必要とする手術を数多く行っておりました。
1994年、アメリカ留学から帰ってきた年に、学会で“内視鏡を使って前方から椎間板を切除した後、背中にまわって通常の後方矯正固定術を行う”手術 法の発表を聞き、日本でも脊椎の内視鏡手術が始まっているのかと思いました。それから1ヶ月ほど後にインフルエンザで寝込んでしまったのですが、その時、 病床で天井を見つめながら「なぜ椎間板だけを前方で抜いて、そのあと後ろに回るのか。あのまま前方で手術をやれるはずだ。」と考えました。
私がいた当時の大阪大学の教授は、前方アプローチを得意としてさまざまな手術を行っていたので、開胸を含む前方アプローチには習熟していましたから、 「やれるはず」と確信して、内視鏡を使用した前方矯正固定術の研究開発をメーカーとともに進めることになりました。
初めは「こんなに難しいことができるわけがない」という意見もありましたが、動物手術を繰り返した後、1999年から、小さな皮膚切開で内視鏡を使用した手術を行えるようになりました。

手術の実際

最初のアイデアは、内視鏡を挿入する穴だけを開け、そこからスクリューを脊椎に挿入し、そのスクリューに体外からシャフトを立てて、そのシャフトを体の外側から操作して矯正を行うことでした。これは矯正力が大変に良好でした。
次に思いついたことが、あらかじめ側弯に沿って曲げたロッド(金属の棒)を脊椎にはめて、それを回転させて変形を治す方法です。後方の手術ではロッド を回転させて治療する例がありましたが、胸椎の前方矯正固定術では過去に例がありませんでした。しかし、これがとてもうまくいくのです。さらに初めからの 体の外側から操作して矯正する方法を加えることで、とても良い脊椎の形になります。また、使用するスクリューをチタンに替えるなどの改善も行い、手術の成 績はさらに良くなりました。
骨癒合(骨がくっつくこと)に関しては、人工骨を使わずに、患者さん自身の肋骨を一部頂いて、椎体と椎体の間にまたぐように打ち込むことで、強固な骨 癒合を得ることができます。骨癒合がうまくいかないとロッドが折れてしまうこともありますが、この方法を始めてからそのようなことが無くなりました。

また、内視鏡下に脊椎にスクリューを挿入することは難しい作業です。以前はエックス線透視をしながら挿入していたのですが、現在は最新型のナビゲーションシステム(コンピューター手術支援システム)[?]を導入し、それを使って前方の椎体にスクリューを挿入しています。前方の椎体へのコンピューター支援下でのスクリュー挿入は世界中でも行っているところは殆 どなく、恐らく当院が世界で一番多いのではないでしょうか。高性能の3次元画像作成用X線透視装置とナビゲーションを使用することで、椎体へのスクリュー 挿入操作を正確にかつ安全にコントロールすることができるようになりました。スクリューの位置や方向、長さ、椎体の向こう側に出す長さまでコントロールで きます。ですので、大動脈に当たらないように、また、脊髄神経の通っている脊柱管内に入らないように、スクリューを挿入することができるのです。

主なメリット

1.手術の傷が小さく、わきの下に隠れて目立たない

従来は前方法でも肩甲骨から乳房下にかけて斜め横に皮膚を大きく切開していましたが、現在は、内視鏡を入れる小さな傷をわきの下の近くに一つと、その 他2箇所に5~6cmの小さな傷ででき、腕を下ろすと傷がかくれます。また、いくつかの小さな穴だけでも手術はできます。特にわきの下に近い傷は、腕を上 げなければ絶対に見えません。側弯症は若い女性に多いですから、重症の場合は別として、傷が目立たない方が好まれます。

2.短い固定範囲で非常に効果的な矯正ができる

固定範囲は平均6~7椎体と、後方矯正固定術よりも少ない範囲で矯正と固定ができます。しかも、70度の側弯が10度、60度が5度というようにに強 力な矯正もできます。後方矯正固定術では数多くのスクリューを挿入して手術を行う方法もありますが、常識的に考えて、背中に20本以上もネジを入れられた い人はいないでしょうし、スクリューを打つこと自体のリスクもあります。ですので、必要最低限のスクリューでできるだけ矯正効果の高い手術をする方が良い と思います。

3.出血量が少ない

出血量は平均500~600ml程度です。実は、後方矯正固定術よりも前方で行う方が、出血量が少ないのです。これまで、内視鏡を使用した手術を50例ほど行いましたが、最近は輸血したことはありません。

合併症について

これまで神経麻痺はまったくありません。この手術では、すべての症例で感覚神経や運動神経の働きを感覚誘発電位や運動誘発電位としてモニターで観察しています。従って、安全性は高いといえます。
胸椎の前方手術では一般的に、胸膜腔(肺と肋骨をそれぞれ被っている2層の膜の間)に水が溜まる(胸水)、血液が溜まる(血胸)、リンパ液が入り込む (乳び胸)こともあります。このような合併症を予防するために、手術後は胸膜腔に管を入れます。これを胸腔ドレーンといいます。これで問題は生じません。
また、この手術法では、肋骨を一部切りますが、肺の機能への影響は殆どありません。

術後の経過

手術後は胸腔ドレーンを抜くまでベッド上で安静です。安静といってもベッドアップもしますし横向きもできます。現在は大事をとって4~5日間はドレー ンを入れていますが、回復を早めるためにももっと早くドレーンを抜いてもう少し早く離床する方が良いと考えています。後方の手術では、手術後1週間~10 日で退院ですが、前方矯正固定術では手術後10日~2週間かかっています。いずれは同じくらいの経過になると思います。
手術後に、肋骨が痛む場合があります。これは、肋骨を一部切ったり、肋骨のわきに内視鏡を挿入したりするためです。術後は集中治療室に入り、痛み止めを点滴します。術後3日もすると普通は痛みは落ち着き、元気になる患者様が多いようです。

内視鏡を使用した胸椎矯正固定術の適応

胸椎の5番~12番の側弯症に適応があります。多いのは5番~11番、6番~12番です。曲がりの角度はコブ角(側弯症の弯曲の角度)で70度くらいまでです。
しかし、例えば胸椎の上の方(3番、4番)から曲がっていても、やりやすい範囲を前方で行い、胸椎の上の方を後方で行うという、2段構えで手術を行う こともできます。そうすると、背中側の傷は小さくてすみます。このような方法で胸椎の上の方の側弯症や重度の側弯症にも適応できるのではないかと考えま す。

問題点と課題

問題は技術的にやや難しいことです。特に、5番、6番など胸椎の上の方にいくに従って椎体が小さくなります。ですので、ここにいかにうまくスクリュー を挿入するかが課題と言えるでしょう。しかし、ナビゲーションを使用したり、最新型の内視鏡を使用したりすることで、手術の難しさを減らすことができま す。
また、手術時間はナビゲーションを用いたり内視鏡サポートで行うために8~10時間と後方アプローチと比べて少し長いのですが、現在手術時間は短縮されてきており、いずれは6~8時間にしたいと考えています。

自信を持って薦められる手術

このように、色々な新しいシステムやアイデアが組み合わさって、スクリュー挿入の精度が高まり、矯正操作とその効率が向上し、骨癒合や固定が確実に行うことができるようになった今、手術はほぼ完成に近いと思っています。
この方法を思いついたのが1994年で今は2009年ですから、15年という長い時間がかかりましたが、今の状況は、自分の子供に行っても良いし、人様のお子様にもお勧めできると思えるレベルと考えています。
今後、手術に要する時間もどんどん短縮されると考えています。

湘南藤沢徳洲会病院 脊椎・側弯症外科センターの特徴

  • コンピュータ支援手術や最新型の内視鏡など、最高級のメカニクスを駆使している。
  • 矯正方法は世界でここだけ。
  • 脊髄機能モニタリングを徹底的に行い安全性を確保している。

湘南藤沢徳洲会病院 脊椎・側弯症外科センター ホームページ
http://www.sokuwansho.com/

湘南藤沢徳洲会病院 ホームページ
http://fujisawatokushukai.jp/