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第20回 腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術の最前線~からだに負担が少ない手術法~

人口の高齢化にともない、腰部脊柱管狭窄症の患者数も増加しています。現在では様々な治療法が確立されていますが、今回は、従来法よりも侵襲が少ない手術法である内視鏡手術について、国際医療福祉大学整形外科学 教授の江幡重人先生にお話をうかがいます。江幡先生は日本整形外科学会 内視鏡手術技術認定として2,200例を超える脊椎内視鏡の手術経験を持つスペシャリストです。

  1. 腰部脊柱管狭窄症とは
  2. 腰部脊柱管狭窄症に対する手術治療
  3. 手術の適応となる状態
  4. 脊椎内視鏡手術の実際
  5. 手術後の経過
  6. 内視鏡手術の課題と展望
  7. おわりに

腰部脊柱管狭窄症とは

腰椎の神経が通っているトンネル、つまり脊柱管が狭くなって馬尾神経や神経根が圧迫される病気です。主な症状は、下肢の痛み、しびれです。そして、その痛みやしびれによる間欠性跛行(かんけつせいはこう)が特徴的な症状です。間欠性跛行とは、歩行すると下肢に痛みやしびれが出て立ち止まり、暫く休むと再度歩行が可能になるという状態です。長く立ち続ける場合も同様で下肢に痛みやしびれが出現して立ったままでいるのが困難になります。

狭窄は、加齢によって椎間板や靭帯が変性したり、骨が変形したりして起こりますが、生まれながらに脊柱管を形づくる骨が小さい人は狭窄症になりやすいとされています。

腰部脊柱管狭窄症に対する手術治療

保存的な治療には、消炎鎮痛剤などの薬物治療や神経ブロックなどがあります。まずは保存的な治療を行いますが、運動量が減少して生活習慣に悪影響が出現する場合は手術治療をお勧めしています。

手術治療には、背骨につく筋肉をはがして手術する「従来法」と言われる方法と、小さい切開で筋肉の剥離を少なくする方法があります。従来法には椎弓切除術という、椎骨の一部を削って脊柱管を広げる手術があります。脊椎がぐらつくような不安定な場合や側弯を伴う場合は脊椎用のインプラントを使って背骨を固定する椎体間固定術が行われています。

脊椎内視鏡手術も従来法の手術と行っていることは基本的には変わりませんが、皮膚の切開や筋肉の剥離を最小限にして手術侵襲を少なくすることが可能になります。腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術は内視鏡下椎弓形成術(MEL:Micro Endoscopic Laminotomy)と言われ、椎間板ヘルニアに対する内視鏡下椎間板ヘルニア切除術(MED:Micro Endoscopic Discectomy)を応用したものです。内視鏡というと胃カメラを連想する人も多いと思いますが、脊椎内視鏡手術は金属性の筒を挿入し、その中に内視鏡カメラと専用の器具を通して手術を行います。

手術の適応となる状態

手術を行うかどうかは、症状により、どの程度日常生活に影響が出るかを考えて判断します。そのために特徴的な症状である間欠性跛行が目安になります。例えば100mくらい歩くと休まなければならないような状態では、多くの方は歩行を避けるようになり、運動量が減っていきます。そして健康を維持するために必要な運動が十分にできなくなります。このような症状の方には積極的に手術をお勧めしています。また、500m程度歩くことができる方の中にも、下肢の痛み・しびれがあるために運動への意欲が低下し、家にこもりがちになったり、運動量が減少している方も見かけます。そのような場合も、よく生活状況を確認して必要であれば手術をお勧めしています。さらに、糖尿病の人は運動療法によるコントロールが必要になりますが、十分に歩行ができずに血糖コントロールが悪くなっている方を散見します。たとえ10分程度歩くことができても、あまり効果的な運動ができない場合には手術をお勧めしています。

このような間欠性跛行の状態を続けて日常生活における活動性が下がると、筋力や体力が落ちてしまい、せっかく手術をしても回復が遅くなったり、思うように動けなかったりということも多々あります。我慢しすぎて適切な手術のタイミングを逃さないようにすることも大切です。

それ以外の症状では、間欠性跛行に加えて膀胱直腸障害といって排尿に時間がかかる、尿の切れが悪い、残尿感があるなどの症状が出現した場合、下肢の脱力が強くなった場合、安静時のしびれが出現した場合は、症状が進んでいる場合もあり注意が必要です。

年齢的には、最近では90歳を超えている人でも手術を行う場合があります。内視鏡手術は体に負担をかけることが少ないため、手術前に検査を行い、心臓や肺の機能などに問題がなければ高齢でも手術を受けることができます。

脊椎内視鏡手術の実際

内視鏡手術の様子         手術創の大きさ

① 内視鏡下椎弓形成術(MEL)
MELでは、直径16mmの筒を挿入し、筒に内視鏡カメラを設置して、そしてその筒から器具を挿入し、モニターを見ながら手術をします。手術の創の大きさは2cm程度と、従来の手術より小さいです。また、筋肉を骨からはがさないので手術中の出血量も少なく、術後の痛みの軽減に繋がります。このことから、よりからだへの負担が少ない(低侵襲な)手術法といえます。

MED:内視鏡下椎間板ヘルニア切除術

日本で最初に導入された内視鏡手術は、内視鏡下椎間板ヘルニア切除術(MED)です。日本では25年以上の実績があります。手術では一部の骨とヘルニアを切除します。平均的な手術時間は30~40分程度です。

MELはMEDを応用したもので、神経を圧迫している骨や靭帯などを切除して脊柱管をくりぬくように切除します。複数個所(椎間)の手術も可能です。1椎間の平均的な手術時間は40~50分程度です。

MEL:内視鏡下椎弓形成術

MELの術前・術後のMRI画像

 

FESS:内視鏡の映像

FESS:内視鏡の映像

② 完全内視鏡下除圧術(FESS)
FESSは、MEDやMELよりもさらに低侵襲な手術で、直径7mmの筒を用いてヘルニアを摘出したり、神経を圧迫する靭帯や骨を切除したりする手術法です。水を流しながら行うため、水圧で出血が抑えられます。また、術野が常に洗浄されている状態になり、感染予防にも効果があるとされています。

FESSでは、MELやMEDと同じように椎弓からアプローチ(進入)する方法のほかに、椎間孔からのアプローチ方法があり、左右どちらか一方側からのアプローチで行います。椎間孔は脊柱管を通る神経が分岐する(神経根)の通り道です。もともとある孔(椎間孔)を利用することで、骨の切除量を最小限に抑えることができるため、術後に背骨の不安定性が生じにくいとされています。

内視鏡下椎体間固定術の様子と術後のエックス線画像

③ 内視鏡下椎体間固定術(ME-LIF、PET-LIF)
脊椎不安定性や側弯変形を認める場合には固定術を検討する場合があります。そのような症例に内視鏡を用いて腰椎後方椎体間固定術を行います。MEDを応用した方法(ME-LIF)と、FESSを応用した方法(PET-LIF)があります。内視鏡を利用することで手術の低侵襲化が可能となり、従来法の手術に比べて早期離床や早期退院が可能になります。また術後の感染や術後血腫などが従来法と比較して低減できるメリットがあると考えています。

手術後の経過

手術の前日に入院して、経過にもよりますが入院期間は4日~7日程度が一般的です。手術の翌朝には歩くことができます。通常、特別なリハビリテーションは不要ですが、当院の例では、患者さんの状態に応じて退院後の生活に不安がないように指導を行っています。社会復帰については、仕事の形態、例えばデスクワークなのか、力仕事なのか、また患者さんの状態によって異なりますが、1~2カ月で完全復帰される方が多いように思います。

内視鏡手術の課題と今後の展望

内視鏡手術の合併症として、手術後の血腫(血液がたまること)が挙げられます。血腫が神経を圧迫し、痛みが出ることもあります。これを防ぐため、ドレーンと呼ばれる管を2~3日間、傷口に留置して血液を体外に出し、血腫ができないようにします。このほか、従来法と同様に、脊髄(神経)を覆っている膜を損傷してしまうこともあります。

脊椎内視鏡手術には、日本整形外科学会が認定する脊椎内視鏡手術技術認定医の認定制度があります。内視鏡手術を希望される場合は、内視鏡技術認定医に相談されることをお勧めします。内視鏡手術は2004年に保険適用となり、全国的に普及しましたが、この20年間にもかなり進歩しています。今後はナビゲーションシステムの併用により、計画通りに手術を行うことや、手術中の放射線被ばくの低減が進むと考えています。

おわりに

腰部脊柱管狭窄症に対する治療法は進化していますが、傷ついてしまった神経を元通りに回復することはできません。痛みやしびれのために日常の活動量が低下し、筋力や体力が落ちた状態で手術を受けても、長期の経過による体力の低下のためにリハビリに時間を要したり、思うような成果が感じられないことがあります。自覚症状を感じたら、症状が進む前に脊椎治療を行っている整形外科を受診して適切な診断を受け、治療のタイミングを逃さないことが大切です。

協力:
国際医療福祉大学病院
整形外科 江幡  重人 先生