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第14回 側弯症の矯正固定術

今回は『側弯症の矯正固定術』について、長野県松本市にある信州大学医学部附属病院 整形外科 教授 高橋 じゅん先生にお話を伺いました。高橋先生は日本脊椎脊髄病学会の評議員であり、日本側弯症学会の幹事を務められる側弯症治療のスペシャリストです。

  1. 側弯症とは
  2. どのようにして発見されるのか?
  3. どのような経過をたどるのか?
  4. 治療について
  5. より安全で侵襲の少ない矯正固定術
  6. 術後の経過
  7. 側弯症の手術治療について
  8. 側弯症と言われたら

側弯症とは

背骨が柱状につながった状態を脊柱と呼んでいます。正常の脊柱は、前あるいは後ろから見るとほぼまっすぐです。これに対し、脊柱が横に曲がり、脊柱自体のねじれを伴う疾患が側弯症です。
側弯症の大部分は原因不明の特発性側弯症で、学童期の後半から思春期に発生します。弯曲の程度は国際的な指標である「コブ角(Cobb角)」を用いて診断し、コブ角10度以上が「側弯あり」とされています。

どのようにして発見されるのか?

日常生活の中で発見される場合と、例えば、風邪をこじらせて肺炎になり、病院で胸のレントゲン撮影で発見される場合、また、学校検診で発見される場合 などがあります。日常生活の中で発見される場合は、母親が一緒に入浴しながら、背中を流していて気付くとか、洋服を新調する時に両肩や背中がきちんと合わ ないとか、スカートの丈が左右で違っている、というようなことから気付くこともあります。

 

どのような経過をたどるのか?

側弯症の検診

骨がまだ成長期にあり、さらにコブ角が大きいほど、進行する可能性が高いとされています。身長の伸びる速度が最大の時期に最も変形が進行します。
女性では初潮後2~3年で進行が落ち着きますが、胸椎カーブで45度から50度以上、腰椎カーブで40度以上の場合は、骨が成熟した後も進行する例が多いため、手術治療が勧められます。
側弯症は、思春期までは多くの場合、痛みや呼吸困難などの自覚症状はありませんが、高度の胸椎カーブでは呼吸機能障害を、腰椎カーブでは成人後の腰痛 の原因となるほかに、感受性の高い思春期に精神的ストレスを引き起こすこともあります。100度の胸椎カーブの場合、肺活量は予測値の50%程度※まで減 少するといわれています。
※肺活量は年齢、性別、身長などに影響されます。それらを考慮した計算式から「予測値」が決まります。実際に測定した肺活量がその予測値に対して80%以上になるのが正常です。

治療について

1. 保存治療

コブ角25度未満の軽度の側弯症は、専門医による3~6カ月毎のレントゲン撮影と診察が行われます。
コブ角25度以上の側弯症で、骨年齢が成熟していない患者さんでは装具療法が有効とされています。当院では腋の下から骨盤までのプラスチック製の矯正 装具(コルセット)を、基本的に入浴と体育の時以外は装着してもらいます。コルセットを装着して通学することに強い抵抗を感じるお子さんもいますが、その 場合は「家に帰ってから起床するまでは装着してください」と話しています。2. 手術治療
胸椎カーブでは45度から50度、腰椎カーブでは40度を超える側弯症は、骨の発育が終了した後も進行するため、手術治療が望ましいとされています。代表的な手術法は、背中からの脊椎インストルメンテーションを用いた矯正固定手術です。
現在、世界的に広く行われている手術は、チタン性の椎弓根スクリューというネジを椎骨に挿入し、チタンまたはコバルトクロム性のロッド(金属棒)をネジに装着し、そのロッドを回すことにより矯正する方法です。

より安全で侵襲の少ない矯正固定術

1.必要最小限のスクリューで矯正する

Skip Pedicle
Screw Fixation

一般的な固定

側弯症の矯正固定術では、すべての椎骨にネジを打って矯正し固定するという方法が一般的です。ネジの数が多ければ、その1本にかかる負荷が少なくなり、破損などのトラブルが減少する可能性があります。また矯正固定力が良くなる可能性もあります。
しかし、ネジは脊髄や神経根、大動脈の近くに挿入するため、それらの組織を損傷する危険性がゼロとは言えません。また、挿入するネジが多くなるほど手術時間が長くなり、出血量も増え、患者さんの体への負担が大きくなります。

そこで、当院では、できるだけ少ない数のネジで同等の矯正が得られないかと考え、1~2つ椎骨にネジを打って、1つの椎骨をスキップする(抜か す)Skip Pedicle Screw Fixationという術式を考案しました。これにより手術時間が短くなり、出血量も減り、手術侵襲が少なくなります。なお、カーブの大きさや使用する金 属の種類によって、スキップさせる場所やネジの本数を調整しています。

2.骨盤からはなるべく骨をとらない、人工骨はなるべく使わない

術前 / 術後
(Skip Pedicle Screw Fixation)

より強固な固定性を得るために、金属で矯正固定した部分に、手術で切除した棘突起や横突起、椎間関節の骨を移植します。

その際に、骨盤の骨を取って移植したり、人工骨を使用する場合がありますが、当院では、マルファン症候群などに伴う特殊な側弯症の場合には骨盤の骨を移植 することもありますが、特発性側弯症の矯正固定術については、他の部位からの骨移植や人工骨の使用は行っていません。この方法で骨が足りなくなることはま ずありませんし、骨が上手くつかないなどの問題は生じていません。
骨盤から骨を取れば傷が一つ増えます。私にも子供がいますが、自分の子供であれば余計な傷はつけたくありませんし、なるべく人工骨も使いたくないという思いがあります。

 

3.ナビゲーション手術の課題を克服

さらに、ネジを正確に椎弓根に挿入するため、16年前に信州大学でコンピュータナビゲーションシステムを脊椎手術に導入し、側弯症手術にも応用してきました。
手術中に、術前のCTの画像と実際の椎骨を一致させる操作を行います。これをレジストレーションと言いますが、この操作にかなり時間を要するために、 ナビゲーションを使うと「正確」だけれど「手術時間が長くなって、その分患者さんへの侵襲が大きくなり、回復にも時間がかかる」という欠点がありました。

ナビゲーション画面

そういった欠点を克服するために、通常は1つの椎骨ごとに行うレジストレーションを、3つの椎骨ごとに行うMulti-level Registrationという方法を考案しました。これにより、ネジを正確に入れて安全性を確保しながら、手術時間も早く、また患者さんの回復も早める ことが可能になりました。胸椎カーブであれば約3時間、腰椎カーブであれば約2時間で手術が可能になっています。
また、当院では「出来るだけスクリュー(ネジ)を使わない」をコンセプトにしていますが、少ないネジでより確実な矯正と固定を得るために、できるだけ太くて長いネジを使います。細く短いネジよりも挿入が難しくなりますが、ナビゲーションの使用によって安心して行うことができます。

術後の経過

術後3~4日目には起き上がって歩くことができます。術後10日目で抜糸を行い、11日目に退院しています。
退院したらすぐに学校に行くことはできますが、術後の痛みには個人差があるため、すぐに通学を開始する子もいれば、2週間位自宅療養する子もいます。
術後は、6カ月間は体育やスポーツは禁止です。また、10kg以上のものは持たないように指導しています。術後6か月で体育やスポーツを許可します。ただし、コンタクトスポーツ(柔道、ラグビーなど直接体がぶつかるスポーツ)は禁止です。
手術で挿入したネジやロッド(支柱)は基本的には抜去しません。まれに、感染や、ネジの頭が皮膚に当たって痛みがある場合、また本人の希望により抜くこともあります。

側弯症の手術治療について

思春期までの場合、側弯そのものでの痛みはあまり訴えることがありません。ですから、「見た目が悪いくらいでどうして子供の手術をするの?」と思うこともあると思います。しかし、大人の女性になれば気になってくることが多いのです。
子供の場合は矯正も良好であり、手術の合併症も少なく、さらに術後の回復も早いです。年齢が大きいほど矯正も難しく合併症も多くなります。成人してから健康に過ごすために、子供のうちに手術をした方が良いと一般的には言われています。
手術治療が成功しても患者さんが満足しなければ意味がありません。安全に、かつ患者さんの負担を少しでも減らし、そして、患者さんが満足される手術を心掛けて治療にあたっています。

側弯症と言われたら

まずは整形外科を受診することをお勧めします。装具治療、手術治療が必要な患者さんに対しては、側弯症専門医のいる病院を紹介されると思います。日本 側弯症学会のホームページに側弯症専門医のいる医療機関一覧がありますので、参考にしてください。

高橋 淳 先生メッセージビデオ
信州大学医学部附属病院 ホームページ
http://wwwhp.md.shinshu-u.ac.jp/