第12回 椎間板ヘルニア~傷が小さい顕微鏡手術~

現在、日本で行われている椎間板ヘルニアの手術治療にはさまざまな方法があります。今回は、内視鏡用の器械を使用することで”傷が小さい顕微鏡手術”を行っている石川県かほく市の藤田整形外科クリニック 院長の藤田拓也先生にお話を伺いました。
藤田先生は日本脊椎脊髄病学会の指導医であり、2001年にこの手術法を導入して以来1,000例以上の経験を持つ脊椎外科のスペシャリストです。

 椎間板ヘルニアとは

脊椎は、椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が連結したものです。椎間板は、椎骨と椎骨の間にあって、衝撃をやわらげるクッションの役割をしています。椎間 板の中心は髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の組織で、その周辺を線維の層(線維輪=せんいりん)が取り囲んでいます。   椎間板には多くの負担がかかり、年齢とともに髄核の水分が失われて弾力がなくなったり線維輪に亀裂が生じたりします。

車のタイヤを例にとると、新品のタイヤは滅多にパンクしませんが、10万kmも走ると傷んでパンクする可能性も出てきます。同じように、変性した椎間板がパンクして線維輪や髄核が飛び出して神経を圧迫するのが椎間板ヘルニアです。
腰椎椎間板ヘルニアでは、腰痛や片側の足の痛み、坐骨神経痛、ひどい場合には排泄障害や下肢の脱力感などの症状が出ることがあります。
患者さんの8割くらいは安静で軽快することが多いのですが、飲み薬や注射などによる治療を1カ月以上続けても改善しない場合や、痛みが強い場合、脚の力がなくなってきた場合には、手術の適応と考えています。

 椎間板ヘルニアの手術治療

椎間板ヘルニア手術の主な方法として、①神経を圧迫しているヘルニアを摘出する方法(ヘルニア摘出術)と、②髄核の一部を摘出して椎間板の圧力を小さ くすることでヘルニアを引っ込める方法があります。日本では①のヘルニアを摘出する方法が最も一般的で治療成績が良いとされています。②はレーザー治療 (レーザー光線で髄核を焼く)や、細い管を使って髄核を吸い出す(経皮的髄核摘出術)といった手術がこれにあたります。

 ヘルニア摘出術

椎間板ヘルニアを摘出する方法にもさまざまなものがあります。
従来の方法は、背中の皮膚を3~4cm切開して脊椎に到達し、ヘルニアを摘出します。
手術の精度を上げるために、ヘルニア摘出の際に顕微鏡を見ながら行う手術(顕微鏡下ヘルニア摘出術)もあります。
内視鏡を使った手術(内視鏡下ヘルニア摘出術)は、10年ほど前から行われるようになりました。これは、1.6cm(指1本分)の円筒を使って、そこ から内視鏡と手術器具を挿入し、モニター画面を見ながら手術を行うものです。従来の方法に比べて小さな皮膚切開で、さらに筋肉を傷めないので、患者さんへ の侵襲が少ない手術(低侵襲手術)と言えます。
ただし、テレビやモニターなどの画面は二次元の世界で、奥行きがわかりにくいという難点があります。そのため、内視鏡下手術は誰にでも行える手術ではなく、手術手技の習熟までにトレーニングを要します。

 傷が小さい顕微鏡手術とは

手術の傷跡

内視鏡下手術の提唱と同時に、米国では、内視鏡下手術で使用する1.6cmの円筒を利用しつつ、難しい内視鏡を使わずに手術ができないものか、という 発想から、顕微鏡で円筒の中を拡大視して手術を行う”内視鏡器械を使用した顕微鏡下ヘルニア摘出術”が開発され、普及し始めました。

この手術法のメリットは、内視鏡下手術と全く同様の、小さな皮膚切開で筋肉を傷めない低侵襲手術であることと、さらに、顕微鏡で見ることで、両目で手 術部位を見る=3次元で立体的に手術部位をしっかり確認することができる、ということです。大事な神経の微細構造であるとか、ヘルニアの圧迫の度合いがよ くわかります。
ヘルニアは神経を圧迫している病気です。ですから、圧迫の度合いがどれくらいかを知ることは非常に重要なのです。このように、顕微鏡を使用することで手術の安全性につながることが最大のメリットと考えます。
ただし、この顕微鏡下の手術では、内視鏡カメラは円筒の中に挿入して神経の近くまで近づけることができるのに対して、顕微鏡は円筒の中を覗きこむため 円筒に挿入した手術器具が顕微鏡の視野を遮ることがあります。しかし、それは手術の妨げになるほどではなく、私の経験では1,000例以上この手術を行っ ていますが、顕微鏡視野が確保できず手術を変更したケースは1例もありません。この手術は低侵襲であり、かつ、3次元で立体視しながら手術をするため安全 性も担保されており、極めて有用な方法と考えています。

 手術の特徴

麻酔の方法や再発率は、従来の手術法もこの顕微鏡下手術も違いがありません。また、従来法の手術時間が1時間弱に対して、この顕微鏡手術は50分程度と大きな差はありませんが、内視鏡下手術と同様に出血がほとんどないのが特徴です。
術後は、従来法と同様に手術の翌日から立って歩くことができますが、傷が小さいので術後の痛みが少なく、より楽に動くことができます。また、抜糸の必 要がないため、術後2~4日で退院することが可能です。ただし、「あまり早く退院するのは不安」という患者さんもおり、平均すると7日~10日間の入院が 多いように思います。それでも、従来法の2週間と比べて早く退院がされ、社会復帰も早くなっています。
もうひとつ、この手術の大きな特徴は、体格が大きい人でも小さな傷で手術ができることです。肥満体形や筋肉質の患者さんは、従来法では通常よりもさら に大きく皮膚を切開する必要があります。しかし、この手術法ではどのような体型の人でも1.6cmの切開で手術が可能です。
術後の注意点はどの手術にも共通していることです。普通に生活をしていても、スポーツや重労働をしても、再発率に明らかな差はありません。ですから、術後1か月程度は無理をしないようにしますが、それ以降は普通に生活しても構わないでしょう。
また、椎間板の変性にニコチンが影響していることがわかっています。喫煙者には、椎間板のさらなる悪化を防ぐためにも、タバコは控えた方が良いと説明しています。

 椎間板ヘルニアの手術を受ける前に

よく患者さんから、「手術をしたら100%治りますか?」という質問を受けますが、残念ながら、ヘルニアの手術をしても100%よくなるものではありません。
ヘルニアを起こした椎間板は、変性した椎間板です。手術によってヘルニアは摘出できても、変性した椎間板を元に戻すことはできないのです。右のMRI 画像のように、変性した椎間板は黒くなって見えますが、手術をしても椎間板は黒いままです。ですから、2~3%の割合で再発することもありますし、椎間板 が傷んでクッションの役割がなくなっているので、腰痛も残ります。

この手術法は安全で低侵襲な手術であると私は考えていますが、どのような手術であっても、患者さんが手術について納得してのぞまなければ、高い満足度 は得られないと思います。手術を受けられる前には、主治医とよく相談してのぞむことをお勧めします。

藤田 拓也 先生メッセージビデオ
藤田整形外科クリニック ホームページ
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