第18回 頚椎の病気と診断されたら ~頚椎症・後縦靭帯骨化症・頚椎変形とその治療~

今回は、手術治療の対象となるような頚椎の病気とその手術方法について、京都市上京区にある医療法人 相馬病院の池永 稔 先生にお話をうかがいます。池永先生はこれまでに4,000例を超える脊椎手術を経験し、年間約50例の頚椎手術を行うスペシャリストです。


 

頚椎症(上から見たところ)

 頚椎に問題を生じる病気
治療の対象となる主な頚椎の病気として、頚椎症、後縦靭帯骨化症、頚椎変形などがあります。

頚椎症は、頚椎の中を通る神経(脊髄)が圧迫されて手足の動きが悪くなったり(頚椎症性脊髄症・頚部脊髄症)、脊髄から左右に枝分かれする神経(神経根)が圧迫されて手のしびれや痛み、あるいは麻痺が生じたりする(頚椎症性神経根症)病気です。

後縦靭帯骨化症(上から見たところ)

主な原因は、加齢に伴って首の骨(椎骨)が変形してとがったり(骨棘:こつきょく)突き出たりして神経を圧迫することで起こります。

後縦靭帯骨化症(OPLL)は、脊髄のすぐ後ろにある靭帯(後縦靭帯:こうじゅうじんたい)が、骨のように硬く厚くなって脊髄を圧迫するもので、国の指定難病です。原因は不明ですが、遺伝的な素因や体質的な素因で発症すると言われています。加齢で起こる病気とは違い、誰にでも起こるものではありません。

後縦靭帯骨化症 (横からみたところ)

頚椎変形は、首全体の変形を言います。背骨(脊椎)は横から見るとまっすぐではなく、ところどころ弯曲(カーブ)しています。これを生理的弯曲と言い、正常な頚椎は前弯(前方に凸)しています。これがまっすぐになったり、逆に後弯(後方に凸)になったりすることがあります。
原因として加齢による椎骨の変形があげられますが、首だけの問題ではなく、腰や背中の変形による影響も考えられます。例えば、背中がひどく丸まっていると、バランスを取るために首が後方に曲がってきます。また、背中がまっすぐのときは、首が前に出てきたりします。このように、背骨全体に問題があって頚椎が変形してくることもよくあります。

このほかには関節リウマチによる頚椎変形があります。関節リウマチは関節が壊れてしまう病気です。肘やひざなどと同様に、背骨の関節が不安定になって首が後弯してしまうことがあります。しかし、最近ではリウマチの特効薬が開発され、手術をする患者さんはぐんと減りました。指や背骨の変形もだいぶ抑えられるようです。
頚椎変形は徐々に進んでいきます。変形が進むと脊髄を圧迫するようになり、脊髄が紙のように薄くなってしまう患者さんもいます。そうなると脊髄症になり、手足が動かないなどの症状が出ます。

また、最近お年寄りのかたで“首下がり”といって、首が前方に折れ曲がったような状態になることがあります。若い人でもスマートフォンを見る姿勢を続けることで頚椎が変形するいわゆる“スマホ首”が増えています。そのような姿勢を続けると、将来的に“首下がり”になる可能性もゼロではありません。

 症状 -頚髄に影響が出た場合-
一般的には、手のしびれから現れることが多いです。片方の手から始まって両手に広がり、そのうちに手の動きが悪くなって細かい作業ができなくなります。例えば、小銭が上手くつめない、字が書きづらい、箸が使いづらい、服のボタンがかけづらい、などです。それから、足の方に症状が広がっていきます。必ずしも当てはまらない患者さんもいますが、このような経過をたどるかたは非常に多いです。

病院を受診する患者さんは、多くの場合“手のしびれ”で来院されます。しかし、手のしびれだけでは病気に気付かない人もいます。「最近歩けない」とか「ふらふらする」とか、医師に腰が悪いと言われているけれど調べてみたら首が悪かった、と言うことも結構あります。首の場合は、腰と違って、首そのものに痛みが出にくいのも特徴です。
そして、病気とは思わずに年齢によるものと思い込んでいる患者さんも多く、病気が見過ごされてしまうことがあります。「そういえば2—3年前からよく転んでいた」などと、症状が出てからかなりの時間が経ってから受診する患者さんも多いのです。

治療
保存的な治療として一般的なものは、薬(消炎鎮痛剤)やけん引(首を引っ張る)、電気を当てるというものです。これらは、症状、特に痛みをやわらげるという意味では効果があるかもしれません。しかし、症状をやわらげるだけで、脊髄(神経)の治療という意味ではまったく効果がありません。脊髄の圧迫や、脊髄の症状の進行を改善するような方法は手術しかないのが現状です。

手術では、首の後ろから骨を削って脊髄の通り道を広げ、しびれ等の原因となっている圧迫を取る(除圧)手術が多いです。椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)と呼ばれる手術ですが、比較的簡便で手術時間も短いため、日本では非常によく行われています。頚の手術といえば10人のうち8人はこの手術と思います。平均的な成績が得られる良い手術法ではありますが、首の後ろの骨を削ったり筋肉を切ったりするため、術後、さらに後弯が進む患者さんもいます。これを防ぐために、追加で金属のネジなどを使って脊椎を固定する場合もあります。

一方、前方から行う手術もあります。この場合は、骨や人工骨を移植して金属で固定しますが、手術後の成績は非常に安定していて、再び悪化することは少なくなります。金属で固定する手術は、椎弓形成術と比べると手術時間も長くなり、患者さんへの負担が大きくなります。特に、前方からの手術の場合は、骨を移植したり金属を使ったりと手間もかかりますが、手術後の安定性は前方の方が優れていると言われています。それは、腰と違って首は後ろの筋肉で支えられている要素が非常に大きく、後方で固定術を行う場合は、本来首を支えるべき大切な筋肉を大きく開くことになります。一方、前方からの固定では、後ろの筋肉をまったく傷つけることなく温存できるので、より安定するのです。また、後方の手術では、手術後に頚の後ろが痛いという患者さんの訴えがたびたびありますが、前方の場合はそのようなことはほとんどありません。

ちなみに、最近、腰の手術では後方から小さな傷で固定術を行う手術手技が開発されていますが、首の場合は腰と違って骨が小さいため、そのような手技は非常に難しいと言えます。

 前方からの手術の実際
前方からの手術では、神経(脊髄)の圧迫を取るために、頚椎の前方の骨(椎体)を取り除いて、代わりに患者さん自身の骨を移植したり、金属に置き換えたりします。患者さんの骨を移植する場合は、腓骨といって、すねの骨(脛骨)の横に付いている骨を切って移植することもあります。医師は、手術の範囲や、患者さんの年齢や骨の状態によって、骨移植をするか金属で置き換えるかを判断します。

手術前エックス線(正面)

手術前エックス線(正面)

手術前MRI(側面)

手術前MRI(側面)

後縦靭帯骨化症では広範囲に手術をすることが多いのですが、椎体を3つ以上切除する場合や、高齢者で、脊柱変形があって、骨がもろい患者さんの場合には、さまざまな工夫が必要となります。例えば、私の場合は、移植した骨(又は金属製の人工椎体)に頚椎前方用の金属製プレートを当てネジで固定して、さらに(椎弓根用の)ネジを追加して金属製の棒(ロッド)で繋ぎ、強力な固定をしています(右術後エックス線写真)。若くて骨がしっかりしている人で、椎体の切除が2つまでの場合は、金属製の人工椎体と頚椎の前方に金属製のプレートを当てネジで固定するだけでも安定性が得られています。

手術後エックス線(側面)

手術後エックス線(側面)

手術前エックス線(側面)

手術前エックス線(側面)

前方の固定術の方が安定性に優れていると言われていますが、手術は後方よりも難しくなります。なぜなら、首の後ろは筋肉だけですが、首の前方には気管や食道、血管などいろいろな組織が集中しているからです。したがって、医師は十分に訓練を積む必要があります。個人の経験では重篤な合併症の経験はほとんどありませんが、手術後にのどの違和感や(カラオケ等で)高い音域が出なくなるということはあるようです。

また、前方、後方を問わず、頚椎の手術後にC5麻痺(⇒第5頚椎神経根の疼痛)といって、肩や肘が動きにくくなることがあります。はっきりとした原因はわかっておらず、頻度としては5~10%でみられます。多くは時間の経過とともに回復しますが、重症の場合は、肘は回復しても肩が上がりにくいといった症状が残ることもあります。このような合併症については、手術前に話はしていても、実際におこると患者さんは非常に不便ですし、手術前まで動かせていたものが動かなくなれば満足度も下がってしまいます。昔のように手術をしたら寝たきりになってしまうとか、そういうことは万に一つもありませんが、手術にともなう諸問題は常に念頭に置く必要があります。

 手術を受けるタイミング
どの時点で手術に踏み切るかは、患者さんにとってはかなり判断が難しいところと思います。明らかに症状がひどくなる、明らかに進行している場合は、手術をしなければならないでしょう。例えば、しびれが両手から足にまで広がってきたとか、立っているだけでも不安定だとか、症状がどんどん進んでいるのは非常に危ない状態ですから、手術を受けるべきと考えています。

病気の進行の速度は患者さんによってまちまちですが、ある時を境に、坂道を転げ落ちるように悪化することがあります。圧迫されながらも頑張って機能していた神経が限界に達し、ガタガタガタと悪くなる時期があるのです。そうなるかならかいかという時にタイミング良く手術をすることができれば、患者さんも理解しやすく、医師も手術を進めやすいのではないかと思います。症状が軽い時期は、患者さんも「本当に手術をしなければいけないのか?」と納得できない面もあるかと思いますが、明らかに症状が進んできて「これは危ないな」と思うようになれば、手術に対する向き合い方も変わってくるのではないでしょうか。

もちろん、手術後の回復を考えれば、症状が軽いうちに手術をする方が良いでしょう。手術後も、特にしびれなどは後遺症として残る場合がありますが、症状が軽い(=脊髄のダメージが軽い)うちに手術をすれば、回復も早く、後遺症も軽く済む可能性が十分にあります。
また、緊急の場合を除いて、手術を勧める際には、医師は患者さんの経過を把握しておく必要があります。紹介状などがあれば問題ありませんが、初めて診察してすぐに手術、と言うのはあまり好ましくありません。頚椎に異常が見つかった時は、同じ医師に定期的に診てもらい、悪くなってきたら手術、と言うのが一番安全に、そして良いタイミングの治療になるのではないかと思います。

頚椎カラー(装具)

 手術後の経過について
手術後は、通常2週間くらい首の装具(カラー)をつけます。当院では安静の意味をこめて1か月程度つけています。骨が完全につくまでには半年くらいかかりますが、患者さんには、その間も普通に生活をする分には問題ないとお話しています。通常の日常生活ではしないような激しい動きやスポーツなどは、必ず主治医の許可をとってから再開するようにします。

脊髄の圧迫症状が進むと歩行が困難になることが多いのですが、手術後は症状が改善し、歩きやすくなります。指の動きが良くなったという人も多く、運動機能は改善する人が多いように感じます。退院する時に杖をついていた人が、半年後に来院する時には杖を使わず歩いていたということもあります。また、神経根が圧迫されて手の痛みがある場合は、手術によって痛みが取れることが多く、手術後すぐに効果を実感できる人が多いです。また、手術前には痛みのために気付かなかったしびれが、痛みが取れたために感じやすくなることもあります。しびれは徐々に消失していく場合もありますが、残ってしまう場合もあります。しびれについては、神経が圧迫されていた期間が長いと残りやすいと言われています。

 頚椎症と診断されたら
首の病気というとだれでも怖い印象を受けると思います。しかし、症状があっても必ずしも手術になるわけではありません。それよりも病気の進行に気付かずに過ごしている方が危ないということを知っていただきたいと思います。

頚椎に問題があると言われたら、脊椎を専門とする医師のいる病院を受診して、同じ医師の目で経過をみてもらうことが大切です。手術についてはタイミングが大事ですが、同じ医師の目でみていれば、その判断もよりしやすくなります。

手術はできるだけ早めに受ける方がより安全です。転倒を繰り返すような人は骨折等の大ケガをする危険性も多分にあります。また、若い人の場合は、神経も頑張りがきくことが多いですし、仕事や家庭の都合もあって手術に踏み切れないということもあると思いますが、一生のうちに一度は手術をすると思っておいた方が良いでしょう。年齢的にはいくつでも手術はできますが、症状が進んで非常に危ない状態で手術を受けることは避けた方が良いと思います。
また、手術を受ける前には、我々医師も十分に説明をするよう心がけていますが、決して簡単な内容ではありませんから、わからないことはそのままにせず、ご家族を交えて、主治医と納得のいくまで相談されることをお勧めします。

 

協力:
医療法人  相馬病院 脊椎外来 池永  稔 先生